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東京高等裁判所 昭和52年(う)522号 判決 1978年5月23日

被告人 ダイヤモンドニクス株式会社 外一名

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人井上卓一、同鎌田俊正が連名で差し出した控訴趣意書に記載してあるとおりであるから、これを引用し、これに対して当裁判所は、次のように判断する。

第一、控訴趣意一(理由不備の主張)について

所論は、原判決は、判決に理由を附せず、または理由にくいちがいがあるから破棄を免れないと主張し、その理由を縷述するので、以下所論の各点について順次判断を示すこととする。

一、原判決は「罪となるべき事実」の判示を欠くとの主張(同一の(一))について

所論は、原判決は「罪となるべき事実」の一において本件各チラシの「販売価格」の表示が不正競争防止法五条一号の「虚偽の表示」に該当するとして、「『宣伝即売当日限り全商品市価の約半額』という大見出しを掲げ、展示商品を示す商品の写真と名称のもとに、『展示会価格』および『販売価格』としての各金額を表示し、『展示会価格』は『販売価格』の二分の一または三分の一に近い金額としながら、その金額はいずれも……、一般市価より低額なものではなく、その『販売価格』の金額は、明らかに一般市価に比較して高額なものである」と判示しているが、右の判示は、各「商品」につき具体的な名称の記載がないうえに、「展示会価格」及び「販売価格」についても具体的な金額の表示を欠いているため、本件各チラシ中の表示のどの「商品」の「展示会価格」が一般市価より低額なものではなく、またどの「商品」の「販売価格」のいかなる金額を明らかに一般市価に比較して高額なものであるとして虚偽の表示に当たると判示したのか全く理解できないのであつて、原判決の右のような判示は、刑訴法三三五条一項にいう「罪となるべき事実」の判示を欠くものというべきであると主張する。

そこで原判決の「罪となるべき事実」をみるに、原判決は判示一に先立つて「別紙一覧表『即売会場』欄記載の場所を会場として、指環等の展示即売を行うに際し、その宣伝広告として、……『ダイヤモンドフエステイバル』という標題で、」と判示し、本件各チラシによる宣伝広告の対象となつている商品は出雲会館ほか五個所の「即売会場」で展示即売される指環等であることを明らかにし、次いで判示一において前記のとおりの判示をし、続いて「宝石製品に通暁しない一般読者をして、その『販売価格』が適正な一般市場価額に相当するものであり、宣伝即売の当日に限りこれを半額の低廉にて即売するかの如く錯覚誤信せしめるような」虚偽の表示をした旨判示し、更に判示二において「『原石ベルギー直輸入』という大見出しを掲げ、一般読者をして…原石がダイヤモンドニクス株式会社の手で、ベルギーから直輸入されたものであるかの如く錯覚誤信せしめるような」虚偽の表示をした旨判示しているのであつて、これら判文を含む原判決の全判文に徴すると、原判決は、本件各チラシの表及び裏の全体を総合的にみて、被告人らが本件チラシの中で展示商品として写真及び名称を付して示された指環等の商品について、その「展示会価格」が一般市価より低廉なものではなく、その「販売価格」が明らかに一般市価に比較して高額なものであるのに、前記のような「販売価格」及び「展示会価格」を表示(以下、これを二重価格表示という)して、一般読者にその「販売価格」が適正な一般市場価額に相当するものであり、宣伝即売の当日に限りこれをその約半額の低廉な価額で即売するかのように、かつ、かような即売ができるのは原石をベルギーから直輸入しているからであるかのように、それぞれ錯覚誤信を生ぜしめるような表示をしたものであり、右表示は取りも直さず、商品がその「販売価格」に相当する内容、品質のものでないのにそうであるかのように誤信せしめる虚偽の表示にほかならず、これを不正競争防止法五条一号にいう商品の品質内容につき「誤認ヲ生ゼシムル虚偽ノ表示」に該当するとしていることは明らかであり、原判決は、右規定の構成要件を充足する程度に具体的事実を判示していると認められるのであつて、右構成要件の内容からみても、個々の商品の名称及びその具体的金額まで判示する必要は毫もないといわなければならない。したがつて、原判決に刑訴法三三五条一項の「罪となるべき事実」の判示を欠いた理由不備があるとは認められない。論旨は理由がない。

二、一般市価の明示を欠くため、「販売価格」が一般市価に比較して明らかに高額であるとの判定ができないとの主張(同一の(四)、(五))について

所論は、原判決は「『販売価格』の金額は明らかに一般市価に比較して高額なものである」と判示するけれども、一般市価を明示しなければ「販売価格」が一般市価に比較して「明らかに」高額であるということはできないから、原判決には理由不備の違法があるというが、個々の商品の具体的価格をいちいち判示する必要がないことは前記一に説示したとおりであり、原判示事実によれば、原判決は「『展示会価格』は『販売価格』の二分の一または三分の一に近い金額」であると判示したうえ、「展示会価格」は一般市価より低額なものではないと判示しているのであつて、右の「販売価格」、「展示会価格」及び一般市価相互の相対的関係を表示することにより、「販売価格」が一般市価に比較して高額なものであることが明らかにされているものということができるから、原判決が各商品について一般市価を具体的に判示しなかつたとしても、原判決には所論のような理由不備はない。論旨は理由がない。

三、「展示会価格」が一般市価より低額なものではなく、「販売価格」は明らかに一般市価に比較して高額なものであるとの判示につき、証拠上そのような認定はできないとの主張(同一の(二)、(三))について

所論は、原判決は判示一において「その金額(『展示会価格』を指す)は、いずれも当該商品の品質、仕入価額等から勘案して、一般市価より低額なものではなく、その『販売価格』の金額は、明らかに一般市価に比較して高額なものである」と判示しているが、これに添う証人山本勝一、同水谷剛市の原審各供述は、ダイヤモンドニクス一文字、クロスフアイアー、ヴイナスパールの品質について言及しているだけで、しかも右の各供述は右両証人が被告人会社の商売敵であること及び証人小松申治、同佐野誠、同渡辺嘉幸、同金丸達弘らの原審各供述に対比し信用できないし、また右以外の商品については品質に関する証拠もなく、仕入価格から勘案して前判示のような判断をしたものと考えられるところ、宝石業界における宝石の価格(小売値段)はまちまちでその間にかなりの開きがあり、仕入価格と一般市価との比率がほぼ一定であるとの原則は当てはまらないから、「展示会価格」が一般市価より低額でないとか、「販売価格」の金額が明らかに一般市価に比較して高額なものであるとか断定することは全く宝石業界の常識に反しており、右以外に前判示事実を認めるに足りる証拠はないから、原判決は証拠に基づかないで事実を認定した違法があり、その違法は控訴理由の「判決に理由を附せず」に当たるというのである。

しかしながら、原判決挙示の関係証拠によれば、原判示一の事実は優に認められるのであつて、原判決には所論のような違法な事実認定による理由不備は見当たらない。

すなわち、まず宝石指環について一般市価が存在するか否かを考えるに、証人水谷剛市は原審公判廷において、昭和四七年七、八月当時宝石指環は小売価格で一〇万円以上のものが高級品とされていたと供述しているところ、押収してある本件チラシ六枚(当庁昭和五二年押第一九八号の三、四、五(ただし、名古屋国際ホテル、出雲会館分)、六、一五)によれば、本件商品の「展示会価格」は、その全体の約八割近くの品目が三万八、〇〇〇円以下で一〇万円以上のものは二品目しかなく、そのほとんどが大衆向けの低価格の商品と認められるのであつて、小売業者である証人山本勝一、同水谷剛市は原審公判廷において、本件宝石の品質、指環の材質、加工の状態を見分して本件当時の相場から右商品の卸値を割り出し、卸売業者である証人小松申治、同佐野誠は原審公判廷において被告人会社に対する自己の卸値を直接取り上げたうえ、右四名とも卸値に対する一定の比率によつて小売価格を想定し、本件商品の「販売価格」や「展示会価格」の各金額の高低を云々していることを考え合わせると、少なくとも本件商品のような低価格の宝石指環については、通常市価(小売値)といわれるものが存在し、その市価は宝石の品質、指環の材質、加工の状態等を考慮して定められる卸値(小売業者からみた仕入価格)に対する一定の比率によつて算出することができるものと認められる。もつとも市価を算出するについての前記比率は、小売業者と卸売業者との間に差異がみられるが、証人小松申治らは輸入、加工を兼ねた第一次卸商であり、他方前記山本、水谷両証人は末端の小売業者であつて、その中間に何段階かの卸商が介在し、それぞれの仕入価格が異つているため右の比率もおのずから異ると認められるのであつて、各流通段階においては、前記小売業者あるいは卸売業者の各供述にみられるように、同業者間では右比率はほぼ一定しているものと考えられるから、流通段階を異にする業者間に比率の差異があるからといつて前記市価の存在を否定すべきものとはならない。なお、原審証人金丸達弘、同神尾勇治、当審証人西倉卓二の各証言及び坂口義弘著「歪んだピラミツドの虚構」等弁護人提出にかかわる各書証(出版物)には、宝石には値段があつてないようなものである等所論に添う供述及び記載がみられるけれども、それらはその前後の内容からして、高級品を対象にして述べているものと認められるのであつて、本件のような低廉な価格の商品については所論は妥当でないというべきである。

そこで次に、「展示会価格」と市価との関係を検討するに、被告人会社に本件商品を納入した卸売業者である証人小松申治、同佐野誠は原審公判廷において、通常の小売価格は仕入価格の二倍ないし三倍が業界の常識であると供述しているところ、被告人太田勝章の司法警察員に対する昭和四七年九月一九日付供述調書及び本件各チラシによれば、「展示会価格」は、仕入価格の判明している同一品目のうちその価格に対し約二倍から三倍までのものが二六品目、三倍を超えるものが八品目あり、右両証人もクロスフアイア(商品名、以下同じ)南十字星、ヴイナスパール、サンゴ(K18)については通常の小売価格に比して高いと述べていることを考え合わせると、右両証人が市価に比して安いと供述しているダイヤモンドニクス一文字等一、二の品目を除いては、各「展示会価格」は、ほぼ市価相当かあるいはこれよりも高額で、そのほとんどが一般市価より低額なものではなかつたと認められ、また「販売価格」と市価との関係についても、被告人太田勝章の前記供述調書及び本件各チラシによれば、被告人太田勝章はこれらチラシを読む者をして実売価格である「展示会価格」を市価の半額と思い込ませるために各「展示会価格」の二倍ないし三倍に近い金額を各「販売価格」としていたことが認められるのであつて、しかも各「展示会価格」の市価に対する関係が前記のとおりである(なおダイヤモンドニクス一文字でさえ「販売価格」は仕入価格の三・六倍あるいは四・〇倍となつていた。)ことからして、「販売価格」明らかに一般市価に比較して高額なものであつたと認めることができる。

以上のとおり、原判決挙示の証拠によると、「展示会価格」の大半及び「販売価格」のすべては、一般用市価に比較して原判示のとおりであつたと認められるのであつて、極めて僅かな商品の「展示会価格」が市価相当額であつたとしても、チラシの全体を総合的にみたうえでの原判決の判断を左右するものではないと考えられるから、原判決には所論のような事実認定を誤つた結果による理由不備はない。論旨は理由がない。

四、被告人太田勝章は本件チラシに表示された「販売価格」等が虚偽の表示であるとの認識を欠いていたとの主張(同一の(六))について

所論は、本件商品について「販売価格」を設定し、「原石ベルギー直輸入」の表示をし、「動産宝石保証書」の草案を起草した直接の行為者は、社員の太田勝之であつて被告人太田勝章ではなく、しかも原審において弁護人が提出した証拠等を合わせ考えると、被告人太田勝章が右三点につき虚偽の表示であるとの認識を持つていたと認定することはできないから、原判決がそれらの点につき右被告人に虚偽の表示であることの認識があつたと認定したのは、証拠に基づかないで事実を認定した違法があり、その違法は理由不備に当たるというのである。

しかしながら、原判決が証拠として挙示している被告人太田勝章の司法警察員に対する昭和四七年九月一一日付、同月一九日付各供述調書及び本件各チラシによれば、同被告人は宝石、貴金属を販売するダイヤモンドニクス株式会社(以下、被告人会社という)を設立し、自ら代表取締役社長となり、大々的な宣伝により顧客を誘引して展示即売会方式により宝石指環類を販売することを計画し、長男の太田勝之に指示して仕入等の業務をさせ、本件各チラシの内容についても事前に十分知つたうえでこれらを印刷、配付されたものと認められるのであつて、本件各チラシの内容については、顧客が、原石がベルギーから直輸入されていることにより本件商品が安く、しかもその「展示会価格」が市価の約半額であると誤信することを承知しながら、被告人会社において原石をベルギーから直輸入した事実はなく、またその「販売価格」はなんら根拠のあるものではないことを知りながら、「原石ベルギー直輸入」及び「全商品市価の約半額」と表示したうえ原判示のような二重価格表示をし、更に、「宝石品質保証書」を「盗難交通事故保証書」と併記したことにつき、千代田火災海上保険株式会社はもちろん被告人会社においても「宝石品質保証書」を発行することはないのに、顧客が右保険会社において品質を保証するものと誤信することを承知しながら原判示三のような表示をしたものと認められるから、被告人太田勝章が右の三点について虚偽の表示に当たることを認識していたことは明らかであるということができる。右認定に反する原審証人太田勝之及び被告人太田勝章(当審)の公判廷における各供述は、前掲各証拠、とりわけ本件各チラシの当該部分の表示自体に徴してたやすく信用できない。なお所論指摘の、根本驥著「歪んだピラミツド」の記載内容及び三越などデパートの新聞広告の内容は前記認定を左右するものとは認められない(なお、違法性の認識に関する点は後述する。)。以上のとおり、原判決には所論のような事実認定を誤つた結果による理由不備は認められず、論旨は理由がない。

第二、同二(法令の解釈、適用の誤りの主張)について

所論は、原判決が本件公訴事実について不正競争防止法五条一号及び五条の二を適用したのは、法令の解釈、適用を誤つたものであつて、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであると主張して、その理由を縷説するので、以下所論の各点について順次判断をする。

一、二重価格表示は不正競争防止法五条一号の「商品の内容」に含まれないとの主張(同二の(一)、(二))について

所論は、原判決は本件各チラシ中の「展示会価格」及び「販売価格」の各金額の表示が不正競争防止法五条一号の商品の「内容」に付き誤認を生ぜしめる虚偽の表示に当たるとしているが、不当景品類及び不当表示防止法(以下、不当景表法という)四条一号が「商品又は役務の品質、規格その他の内容について」不当な表示を禁止し、同条二号が「商品又は役務の価格その他の取引条件について」不当な表示を禁止し、商品の内容と商品の価格とを区別しているように、不正競争防止法においても五条一号の商品の「内容」は給付内容をいうとされているのであつて、二重価格表示は含まれないと解すべきであり、仮にこれに含まれるとしても「虚偽の表示」とはいえないから、本件二重価格表示につき不正競争防止法五条一号を適用した原判決には法令の適用を誤つた違法があると主張する。

ところで、一般に商品の品質、内容は、それらの実体を直接表示することによつて示されるばかりでなく、価格の高低によつても表示され、商品の価格の高低はその商品の品質、内容の優劣を示すものと一般に理解されているところ、本件広告にみられるように(前記第一の四参照)、市価に相当する「販売価格」を極めて高く表示して商品の品質、内容が右価格に相応する優良なものであることを示したうえ、原石を直輸入する等流通経路を短縮することによつて「販売価格」の二分の一ないし三分の一に近い「展示会価格」で即売する旨を表示して廉価で販売することについての合理的説明をし、更に品質についても一流保険会社による保証があるかのように表示し、その商品を購入しようとする者に対し、「販売価格」に相当する優良な品物が、信用のおける品質保証書付で、大幅に値引きされて販売されるようにみせかけた場合、かかる商品の価格等の表示は、全体的にみて実質的には商品の品質、内容についての表示と異なるところがないと認められるのであつて、かかる表示もまた不正競争防止法五条一号にいう商品の品質、内容についての表示に該当すると解するのが相当である。なお所論は、不当景表法四条一号、二号を根拠に「商品の価格」は「商品の品質、内容」に含まれないというが、不正競争防止法五条一号は、不当景表法の制定(昭和三七年)以前に設けられた規定であつて、不当景表法四条一号、二号におけるように「商品の品質、内容」と「商品の価格」とを区別しているわけではないから、二重価格表示等の「商品の価格」の表示が右説示のような意味において不正競争防止法五条一号にいう品質、内容についての虚偽の表示に該当することがあると解することの妨げにはならないというべきであるし、また、本件各チラシの価格の表示が商品の品質、内容についての「虚偽の表示」に当たることは、証拠上明らかである。以上のとおりであつて、本件二重価格表示等につき右規定を適用した原判決には所論のような法令の解釈、適用の誤りはない。論旨は理由がない。

二、「宝石品質保証書」に関する表示は虚偽の表示には当たらないとの主張(同二の(三)、(四)、(五))について

所論は、不正競争防止法五条一号は、同法一条三号、四号、五号のように「誤認ヲ生ゼシムル表示」では足りず、「誤認ヲ生ゼシムル虚偽ノ表示」であることを要件としている。しかるに原判決は、判示三において、「七月二四日、同月二五日および同月二八日をそれぞれ展示即売日とするものについては、裏面大枠の中に、千代田火災海上保険株式会社名をはさんで上下に、『宝石品質保証書』および『盗難交通事故保証書』と併記し、その左肩部分に『全商品保証書付』と札書を添え、一般読者をして一見、千代田火災海上保険株式会社による即売品の盗難、交通事故等による損害保険が保証されるばかりでなく、同会社においても商品の品質を保証する保証書を添えて即売されるかの如く錯覚誤信せしめるような」虚偽の表示をした旨判示しているが、問題のチラシを見ても、千代田火災海上保険株式会社が品質保証書を発行するとの断定的な表示は全くなされておらず、かえつてチラシの文言を上から逐次読む限り、千代田火災海上保険株式会社のする保証は、盗難、交通事故に対するものであつて、宝石の品質に関するものでないことは一見して明らかであるし、仮に一般読者に判示の如き誤認を生ぜしめたとしても、右の表示は虚偽の表示とはいえないから、原判決が右のチラシ中の「宝石品質保証書」に関する表示をもつて「虚偽の表示」であると判示しているのは、前記「誤認ヲ生ゼシムル表示」を「誤認ヲ生ゼシムル虚偽ノ表示」と同じであると誤解し、不正競争防止法五条一号の解釈、適用を誤つたものであると主張する。

しかしながら、この点に関する本件チラシ(当庁昭和五二年押第一九八号の三、四、六)中の保証書ないし保険会社に関する表示は、その表示全体を客観的に見る限り、被告人会社が前記保険会社の発行する「盗難、交通事故保証書」及び「宝石品質保証書」を添えて即売することを簡潔に記載したものと認められ、宝石の取引あるいは保険会社の業務の内容に通暁していない一般読者が右の表示を一見すれば、即売品の盗難、交通事故ばかりでなく、商品の品質についても同保険会社においてこれを保証する保証書が添えられて即売されるものと信じるのが通常であると認められるのであつて、現に原判示の即売会場(出雲会館、天竜閣本店、熱田神宮文化殿)で本件商品を購入した証人時田睦之、同亀山孝子、同放生文子は原審公判廷においていずれも前記チラシを見て同保険会社が品質を保証してくれるものと思つた旨の供述をしているのであつて、また、実際には被告人会社においても商品の品質保証書を発行した事実はなく、「宝石品質保証書」の発行に関する限り右の表示に添う事実はいささかも存在しなかつたことを考え合わせると、前記チラシ中の「宝石品質保証書」に関する表示は、一般読者に前記のような誤認を生ぜしめる虚偽の表示に当たるものと認められる。もつとも原審証人山本勝一、同高坂松次郎、同太田勝之及び被告人太田勝章(当審)は、公判廷において右に反する供述をしているけれども、それらはいずれも宝石の取引または損害保険につきかなりの知識を有している人を前提とした供述であつて、このようなチラシを読む一般人を対象とした本件についての適切な反証とは認められない。以上のとおりであつて、本件「宝石品質保証書」に関する表示につき、不正競争防止法五条一号を適用した原判決には、所論のような法令の解釈、適用の誤りはなく、論旨は理由がない。

三、「原石ベルギー直輸入」の大見出しは、虚偽の表示には当たらないとの主張(同二の(三)、(四)、(六))について

所論は、本件チラシのどこを見ても、ダイヤモンドの原石が被告人会社の手でベルギーから直輸入されたという断定的表示は全くなされていないのに、原判決が「原石ベルギー直輸入」の大見出しをとらえてダイヤモンドの原石が被告人会社の手でベルギーから直輸入されたものであるかの如く一般読者をして錯覚誤信せしめるような虚偽の表示をしたと判示しているのは、前記第二の二と同様「誤認ヲ生ゼシムル表示」を「誤認ヲ生ゼシムル虚偽ノ表示」と同じであると即断し、適用すべからざる事案に不正競争防止法五条一号を適用する誤りを犯したものであると主張する。

ところで本件各チラシによれば、「宣伝即売当日限り(全商品市価の約半額)」という大見出しに続いて、「原石ベルギー直輸入」の大見出しを掲げたうえ、その裏面の末尾に大きく被告人会社名を表示しているのであつて、本件各チラシ全体を客観的にみる限り、宣伝即売当日に限り全商品を市価の約半額で販売する主体は被告人会社である旨を表示したものと認められるのと同様に、原石ベルギーから直輸入した主体もまた被告人会社であるとの表示をしたものと認められ、通常それ以外に解しようがないのであつて、現に前記証人時田睦之らも本件各チラシを見てそのように思つた旨の供述をしているところ、もとより被告人会社においては原石をベルギーから直接輸入した事実はないのであつて、これは、前記第一の四において述べたとおり、顧客が流通経路の短縮により本件商品が市価の約半額で販売されるものと思い込むことを承知のうえで、二重価格表示と合わせて右の表示をしたものであると考えられ、本件チラシの右記載部分は一般読者をして「商品の品質、内容」につき誤認を生ぜしめる虚偽の表示にあたるものと認められる。ただし、更に検討してみると、原判決はこの点に関し「商品の原産地」についても誤認を生ぜしめる虚偽の表示をした旨判示しているものと解せられるが、天然の産物であつてもダイヤモンドのように加工のいかんによつて商品価値が大きく左右されるものについては、その加工地が一般に「原産地」と言われているのであつて、本件のダイヤモンドは世界でも有数の加工地とされるベルギーにおいて加工されたものであることが明らかであるから、本件チラシの前記表示は商品の「原産地」を偽るものではなく、原判決は、この点に関する事実を誤認したものであるが、不正競争防止法五条一号の解釈、適用を誤つたものといえるけれども、同条を適用した他の部分をも合わせ考えるとき、この誤りは判決に影響を及ぼすものではない。

なお、所論は、本件当時一流デパートにおいても本件と同様の宝石指環の広告に「原産地直輸入」の表示をしていたので、被告人太田勝章はかかる表示は商慣習として許されるものと信じていたというが、仮にその表示が許されるものと信じていたとしても、そのように誤信することについて相当な理由があるとは到底認められないから、右につき故意を阻却するものとはいえず、「原石ベルギー直輸入」の表示についても、「商品の品質、内容」に関する限り、原判決が不正競争防止法五条一号を適用したのは正当である。

よつて、刑訴法三九六条により本件各控訴をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 服部一雄 山木寛 中川隆司)

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